殺してみろや!

今日はとくに暑かった。

父親はほぼ毎日散歩に出かける。いいことだ。スーパーのフードコートなどで酒を飲んだりもしているようだが、それでも家に籠もられるよりよっぽどいい。

今日も日中の一番暑い時間帯、彼は家を出ていった。そして夕方に帰ってきた。

離れた部屋に居るぶんにはいいのだが、同じ部屋に居るとかなり臭う。彼が“さっきまでいた部屋”も臭う。

そもそも、彼はかれこれ2ヵ月ほど、風呂はおろかシャワーも浴びていない。頭髪に関してはもう覚えていないぐらい洗っていない。

一軒家だが狭い家だ。この家に住むかぎり一日に何度も彼の臭害を被ることになる。

そして今日は、この暑い日に日中散歩をしてきたからか、何度も乾いた汗のうえに更にまた汗をかいたからなのか、普段の臭いに輪をかけて臭う。

俺は恐る恐る、やさしく、やんわりと、「そろそろシャワーだけでも浴びようよ」などと言った。

それがいけなかった。やさしい=弱い、彼はそのように認識する。そして、弱い=自分が好き放題できる、となる。

よって彼は「(シャワー浴びないことが)我慢でけへんのか!」と怒り出した。

俺はもう腹が立って仕方がなかった。「ずっと我慢してんだよ!!」と彼の倍の剣幕で怒りをあらわにした。その最初の剣幕でアドレナリンが放出され、そのまま連鎖的に大声でまくし立てた。「こっちが言いたいわ!シャワーぐらい我慢して浴びろや!」などと。

ここで母親から「お父さんお酒飲んでるから今日は浴びれないよ」と、父親へ援護が入った。これがいけない。母親はずっと昔から彼の言いなりだ。

俺が「じゃあ明日絶対入れよ!」と言うと、彼は「なんや?入らんかったら殺すんか?殺してみろや!」と言い出した。ストローマン。これも彼にありがちな言い草だ。本当に腹が立つ。極端なことを言えば怯むと思っている。かませば黙ると思っている。

まあ「殺さねーよ、そんなんで刑務所行きたくねーわ!」と俺は怒鳴った。

勢いに圧され、怯んだ彼は「もう今から浴びるわ!今日じゃあかんのか?」と言い出した。

たしかに、そもそも酒を飲んでるって毎日のことだし…明日になると絶対に浴びないだろうし…と思い、その場で浴びてもらうことになった。約2ヵ月ぶりのシャワー。

前回もそうだったが、毎度毎度、異常なほど体力と精神力を消耗する。

普段の臭害にも消耗させられるが、このやり取りはその数倍消耗する、だから2ヵ月も放置することになるんだよな。